泊まった宿の夕食に、素魚(しろうお)が出た。4月上旬だったこの時期の旬の味だという。
給仕をしてくれた仲居さんによると、子供の頃は近くの川で自分で取って来て夕飯に食べたりしていたそうだ。おすすめは踊り食い。
一瞬躊躇したものの、このような機会はそうないだろうと思い踊り食いを試してみることにした。
水を張った鉢に入った素魚を、網ですくって二杯酢の中に落とす。食べ方を訊ねる私に仲居さんは、「通の方ですと喉越しを楽しむと言ってそのまま飲み込む方もいらっしゃいますね。もちろん噛んで味わって頂いても。」
初めて食べる私はまず通のやり方を真似て素魚を1匹箸でつまむ。そのまま口に運ぶと素魚はするすると体を動かしながら喉を通過していった。
これでは味が分からない、と次は2、3匹まとめて二杯酢と共に噛みしめてみると、淡白な味わいの中にほんの微かな苦みもあって、春の味と呼ばれるのにも納得の味がした。
踊り食いは絶対に嫌だ!と言って佃煮を選んだ子供にも勧めてみると、予想に反してこわごわながらも箸を伸ばしてきた。
1匹つまんで、恐る恐る口へ。案外普通の表情で飲み込むと、その後も続けて口に運んでいる。
今までこの時期に日本で宿に泊まることなどほとんどなかったが、今回こうして旬の食べ物を出してもらいながら、春の味覚を楽しんだ。
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