そういう検査があるのを知ってはいたが、自分には関係ないものだと思っていた。
胃と腸の内視鏡検査を受けるにあたり、前日にART検査と呼ばれる抗原検査を受けて、コロナウイルス陰性であることを証明しなければならないと言われた。
MOHと呼ばれるシンガポールの保健省がリストアップしている検査受付クリニック一覧から、徒歩15分くらいのところにあるクリニックを見つけたので早速行ってみる。
私の印象ではシンガポールには個人経営らしい小さなクリニックがやたらとたくさんあって、どうしてそれぞれ経営が成り立っているのか謎だ。
やっと着いたと思って受付で聞いてみると、あっさりと「ああ、それうちではやってません。ここに行ってみたら?」とクリアーファイルの中に挟まれたA4サイズの紙を示された。そこには手書きで他のクリニックの住所と電話番号が書かれていて、よく見ると何のことはない、今までいた場所のすぐ裏手だった。
MOHのリストの存在意義への疑問が浮かばないこともなかったが、考えても仕方がないので速やかに次の場所へと向かう。
そこでは確かにART検査をしているようで、クリニックの前には受付のテーブル、それから待合用の椅子が用意されていて、何故かその横にはソロキャンプ用くらいの大きさのテントがあった。
検査をしたい旨を伝えて受付を完了し、外の椅子に座る。他に順番を待っていたのは4~5人程度だったと思うが、一般診療の人もいたようだ。
雨が降ったらどうするんだろうと思いながら待っていると、ほどなくしてクリニックの中から防護服を着た人が出てきて、前方の椅子に座っていたおばあさんを何故かテントの中に連れて行った。
思わず隣に座っていたフィリピン人メイドの女の子と顔を見合わせていると、テントを揺るがすような大きなくしゃみが2回、それからおばあさんが外へ出てきた。あのテントはARTの検体を取るための場所だったのだ。
路上ライブならぬ路上検査なんだ・・・と思っていたところ、今度は私の順番がきた。促されるままテントの中へ。
防護服を着ていたのは20代くらいの若い男の人で、「怖くないからリラックスしてね~。すぐ終わるからね~。」と子供をあやすように優しく言う。私が気になって仕方がないのは、さっきのおばあさんの飛沫がまだこのテントの中を漂っているのではないかということと、私が彼に思い切り飛沫を浴びせてしまうのではないかということだ。
言われるままに、マスクから鼻だけを出して顎を上げると、大した痛みもなく検体の採取が完了した。鼻の奥に違和感はあったものの、くしゃみが出ることもなく飛沫を飛ばしてしまうこともなかった。
コロナ禍で新たに得た経験や、新たに見たものがこうして私の中に蓄積されていく。
検査結果は30分後くらいに携帯電話のSMSで送られてきた。陰性の証明を手に入れて、内視鏡検査前日の準備が整った。
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