宇宙からの侵略者

雑記

夫がキノコ栽培キットなるものを買ってきたのは、日本でいうところの夏前であっただろうか。

そういやこんなものスーパーで売ってたっけな、程度の認識で全く私の関心を引かなかったものだが、夫の心には響くものがあったらしい。

箱の外側に書いてあるインストラクションによれば、付属品である霧吹きで一日に3~4回、一回に付き3~4プッシュして水を吹きかければ勝手に育つそうだ。

よくわからないまま指示通りに箱の表面を切り取り、早速栽培を開始した。

箱の中には円柱状のものが入っていて、これは恐らく菌床と呼ばれるものだろう。真面目に水を与え続け、3日ほど経ったあたりで、大きさにして五百円玉くらいだろうか、円柱の表面に白くてこんもりしたマシュマロ状のものが現れた。

それまで生命の兆しの全くなかったところに出現したキノコらしきものを見て、俄然やる気になり日に何度も水を与える。すると、何だか見るたびに奴らが大きくなっているような気がするのだ。

はじめは一つだけだったはずのこんもりが、わずか2~3時間の間に小さな子分を従えるかのように3つに増えている。え?と思いつつも放っておくと、夕方には6つほどになっていた。

若干不気味に感じるが、ずっとキノコごときを気にしているほど暇ではない。慌ただしく夕飯の準備を終え、食べ終わってからは後片付けだ。

一息ついて、ついでに水をやっておくかとキノコを見やると、白いマシュマロがいくつもくっついて、箱からはみ出そうになっていて驚いた。あまりの急成長・・・。キノコ栽培とはこういうものなのだろうか。

その後お風呂に入ってからソファで寛いでいた時だ。静かな室内に、急に「ボッ」という音がした。何事かと周りを見回すが特に変わった様子はない。気のせいか?それにしても・・・と思っていたところに、再び「ボッ」。もしやと思ってキノコに近づくと、恐ろしいものが目に入った。

円柱の表面に出現したキノコはまるで泡が膨らむように栽培キットの箱を圧迫していて、白い噴火のように着々と成長していた。あまりの成長の早さに理解が付いて行けず、私の混乱は増すばかりだ。

昔、キノコ嫌いの人が「奴らは宇宙からの侵略者だ」と言っていたのを聞いて、何言ってるんですかーと笑ったことを思い出したが、あの異常な成長の早さを見ていると、確かに何だか得体の知れない生命体のような気がしてくる。

翌朝見てみると遂には立派なカサまで開いていて、よく見知っているキノコの形状になっていた。もはや気味が悪くなった私が無視しているキノコに、夫がせっせと水をやる。

最終的に夫の手によって収穫されたキノコを食べてはみたが、特筆するような味も香りもなく、至って普通のキノコであった。しかも近所の中国系スーパーにパック詰めされたものが売っている。どうしても食べたければ買ってくればいいのだ。

キノコ栽培キットは、収穫してからしばらく休ませるとまた栽培ができると書いてあったが、一度収穫して関心をなくしたのかその後夫も放置していたので、ついに今日、お役御免となりダストシュートに消えていった。