ウミガメの思い出

雑記

シンガポールの海でウミガメを見たことがある。

もう何年か前のことになるが、Vivo Cityというショッピングモールに出掛けていた時のことだ。対岸にセントーサ島を臨むハーバーフロントという地区にあり、インドネシア行きのフェリーの発着場所も近い雰囲気の良いモールだ。

休日のその日は買い物客でよく賑わっていたので、人混みに少し疲れて建物の外に出た。

良く晴れた暑い日で、目の前の海は綺麗な青色をしていたが、シンガポールの海らしく透明度はない。

飲み物を買いに行ってくれた夫を、子供と二人で海を眺めながら待っていた時のことだ。突然数メートル先の海の中から、オレンジ色の大きなウミガメが浮上してきたのだ。

全く予想もしていなかったことに驚いて息を呑んでいると、ウミガメは一呼吸おいてまた海の中に消えていった。

その間恐らく数十秒のことだっただろうと思う。カメラを取り出す間もなく現れて消えていったウミガメに、その場に居合わせた人たちは顔を見合わせ興奮を分かち合った。

都市のイメージが強いであろうシンガポールにも海水浴をできる場所は何か所かあり、対岸のセントーサ島にも設備の整った素敵なビーチがある。しかし、遠目には綺麗な色に見えても、そこでは魚と一緒に泳ぐとか、ましてやウミガメが生息しているというイメージはほとんどないだろう。

覗き見ることのできないシンガポールの海の中にも、ウミガメが生息しているという事実は素晴らしいことであり、そして同時に少し怖い気もした。自分が気付いていないだけで、のんきに泳いでいる足元をウミガメがかすめて通り過ぎていたことがあったかも知れないのだ。

先日ずいぶんと久しぶりに、Vivo Cityから海を眺めた。目の前の海から生き物の気配は伝わって来なかったが、この下にも実は色々な生き物がいるはずだと思うと、心が少し弾むのだ。