シンガポールではドリアンシーズン真っ最中だ。
いや、正確に言うとマレーシアやタイから輸入されてきたドリアンが出回っているので、シンガポールというのは語弊があるが、ともかく街中でたくさんのドリアンが売られているのを見ることができる。
スーパーでパック詰めにして売られているのは比較的匂いの少ないタイ産が多いそうだが、それでも売り場から離れていても独特な匂いですぐにそれとわかるので、路上で売られているマレーシア産のものだと、嫌いな人には耐えられないレベルの匂いだろう。
シンガポール人でも当然嫌いな人もいるだろうが、少なくとも私が知っている限りドリアンが嫌いだという人には会ったことがない。なので毎年この時期になると、夜に近所のどこかの家から流れてくるドリアンの匂いで季節を感じることになるのだ。
かく言う我が家にもドリアン好きがいるが、私はわざわざ買ってまで食べたいと思うほどではないので、シーズン中でも手を出さないことがほとんどだった。
そんな私が今気になってやまないドリアンがある。近所の庭先に生えている大木のドリアンだ。
その家の庭はドリアンが伸ばす枝と葉陰で薄暗く、一見すると非常に地味な印象だったが、ある時枝と枝の間に渡してあるネットに気付いて見上げてみると、そこには立派に実ったドリアンが結構な数ぶら下がっていたのだ。歩道に張り出している枝にもドリアン。ネットでカバーしていなければ、運の悪い歩行者は重傷を負うだろう。
この家に気付いたのは去年のこの時期のことで、毎日のように散歩をしつつ動向を見守っていたが、ある日前を通りかかると見事に全部収穫された後で、不要になったネットも取り外されていたのが悲しかった。運良く収穫しているところに遭遇できたら、是非とも売ってくれるように頼むつもりだったのだ。
国土が狭い先進国で、コンクリートジャングルの印象があるシンガポールだが、意外に緑が多くネイチャーリザーブと呼ばれる自然保護区も複数ある。郊外では庭付きの一戸建て住宅もさほど珍しいわけではない。
そのような住宅の庭先には果樹が植えられていることも多く、パパイヤやジャックフルーツなどは比較的よく見かける。しかし、個人の家の庭先に実を付けたドリアンの木があるというのは、そうそう見られるものではない。
食料の自給率がゼロに近いこの国で、土地のものを食べる機会というのは貴重だと思う。何よりシンガポールの土で育ったものを食べてみたいのだ。
いきなりピンポンしてドリアンを売って下さいと頼む度胸は今のところ私にはないので、偶然を装い収穫の現場に立ち会えることを祈りつつ、近所をうろつく毎日だ。
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